中国杯2014の感想

そろそろみなさん正常性バイアスから目が覚めた頃でしょうか?  肝心の関係者は「本人が大丈夫って言ったんだから大丈夫なんだ、簡単なチェックでは一応ちゃんとしてたし」っつうバイアスから冷めていないふりをしているようですけどね。今回に限っていえば、私はその人のことを、まったくお気の毒な立場でございますね、と思っています。

その一方で、自分が長いこと所属している業界のお偉いさんと、新たに所属するようになった業界の熱血先輩を相手に、自らが飲み込まれそうな状況に追い込まれてもなお、多数派同調性バイアスにひっかからなかったという織田信成先生。「無理しないように、これ以上けがのないようにしてもらいたいですね」でしたか、そのお言葉はあの状況ではあまりにも端的で、あらためて振り返ってみるとじわじわ来るものがあります。

やり直した6分間練習中、ほかの4人の選手は、ものすごく羽生君自身のことを心配していたと思いますよ。それに加えて自分のことも心配しなければならなかった。シャキッとしているとは思えない羽生君がいきなり倒れてきたらよけきれるのだろうかと不安や恐怖を抱えながらジャンプとか練習していたのでしょうか。「これ以上けがのないように」の主語は必ずしも当事者の羽生君やハンヤンだけを指しているのではなかったのかもしれませんね。

実際、彼ら二人があの状態で演技をしたせいでそれぞれの体調がよけいにおかしなことになったのかは、今となってはもうわかりません。二人ともあえて自己責任という形で、ああやって棄権せずに演技をしたのですから、仮に演技をしたことによって体調が悪化したとしても、本当のところは二度と伝わって伝わってこないと思います。自己責任のレベルの話なのだもの、それに付随したよろしくないことを言ったとしても、それはすべて言い訳に受け止められてしまうから。

まずはいったん、中国杯について。感想は今回もメモ取っていなかったのだけど、もう記憶がふっとんじゃった感じ。

  • 日本からのスポンサー看板(今回キャプチャなしです。後日気力が戻ったらやるかも)
    • 高須クリニック
    • ビジネスローン ビジネクスト(アイフル子会社の商工ローン)
    • ほけんの窓口
    • ANA
    • ヒト・コミュニケーションズ(ビックカメラ子会社の人材派遣会社)
    • ダイナム(大手パチンコホールチェーン)
    • JACCS(信販系クレジットカード会社)
  • ギャビー・デールマン大躍進。ジャンプも確かに見栄えがするし、健康的でよろしいかと思うのですが、その反面、「きっとどの曲でも同じ構成で同じ要素の順番で同じ振り付けになったんだろうな」感が拭えませんでした。その印象が正しいのか的外れなのかは来年わかることでしょう。私のひとりよがりな偏見でありますように。
  • 後輩1か2のフリーはスケカナよりはスピードあったように思うけどわかりません。前回アナウンサーは織田先生から「(先輩)金妍児(を彷彿させるような)」という言葉を引き出そうとしていたのが見え見えなのに先生はそれをスルーしました。今回アナウンサーは自ら「金妍児を思い起こさせるような演技ですね」みたいに話をふったところ、先生は「はい」とたった一言。でも今回のほうが前回に比べれば少し具体的にスケートについて褒めていたと思います。
  • 佳菜子ちゃん:SP/FSともに何を表現したいのかということが伝わってくるという意味では期待していた以上によかったです。ジャンプ決まればこの試みは大化けするかも。
  • ジジュン:何がどうだろうと、かわええ。ムーンリバーの途中であのピアコンになっちゃうアレンジ面白いですね。ローリーが選んだのでしょうけど、あの人は曲選びに関しては本当に引き出しが多いし、選手に合うような曲持ってくる。それなのに、なぜGGに対してはああなっちゃうの?
  • リプたん:何がどうだろうと、とりあえずかわええ。去年と比べてスケーティングがすごく変わったわけでもないような気はしますが、難しい年齢なので、連戦連勝じゃなくても、とにかくめげずに続けていくことに価値があると思いました。
  • リーザ:SP/FS/エキシビションとも何をどうやるのか、すっかりわかっていてもまた見たいとみんなに思わせてしまうという意味で、ここまで来るとやっぱりこの子すごいんじゃないかと思うようになりました。なんだかんだ言っても個性的で愛されるキャラクターって、審査する側の主観によって左右されてしまうこういった競技の場合、ものすごいストロングポイントですよね。ある意味3回転ルッツのできばえ以上に。
  • ナムくんのSPに関しては、前回のスケアメのときのほうがよかったように思います。「あれ、ショートもこんなに滑らなかったっけ」と思いました。そしてしみじみ、ハンヤンはうまいんだなあって。ジャンプの調子が悪そうでしたが、すいすいすいすい滑っていくのでそれだけで見ていて気持ちがよかった。だからFSもすっごく楽しみにしていたんですよ……でもそれは次回にとっておきます。すいっと一蹴りのスケートが滑る人って、ああいうジャジーな曲合いますよね。フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーンはぴったりだと思います。(話はそれますが、たとえばPチャンはジャズ滑ってるときが一番良さがでていると思う)
  • くどいようですが、全般的に中国の選手ってすいすい滑るのでジャンプ決まらなくても見てて気持ちいいです。
  • 後半のジャンプが決まらなかった以外は羽生君のSPは期待していた以上によかったと思いました。私はフィギュアスケート男子シングル史上最高のプログラムの曲があまり好きではないので、早いことこのプログラムでそれを塗り替えてほしいと思うほど期待しています。フリー? あれ見せられて《プログラムとして》どうかなんてどう話せっていうんですか?
  • ミーシャ:とりあえずできるジャンプは全部決めれば全体がしまってきますよね。ステップワークそのものの細かいところが昨年と比べて劇的に変わったのかどうかはわかりません。たとえばシェルブールの雨傘でステップ・コレオ二つのシークエンスの情熱の込め方をはっきりと差別化していたのは、単純とはいえうまいやり方だと思いました。エキシビションについては、これを一晩で用意したってことですよね。すごいですね。よくも悪くも決まったことしか繰り返せないスケーターだってたくさんいるであろう中で、そういうクリエイティヴな才能があること自体、貴重だと思います。まだ現役選手なのにこんなことを言うのは本当に失礼なのですが、彼は将来、たとえばコーチであっても、振り付け師であっても、生徒にとってきっといい教え手になれるのではないでしょうか。
  • けがをしなかったFS最終グループの人たち:もう、よくやった…としか言いようがない。残念だけどそういう記憶しかありません。
  • コフトゥン:SPかっこよかったよくやった、FSものすごくがんばったよくやった、エキシかわええ。ほんとかわええ。

さて。

ああいう事故が起こったときに、「選手を救うための医学的処置」を明確にガイドライン化することは必要だと思います。もしそうした方法があの業界の中で共有化されていないのならすぐさま取りかかるべきです。

その反面、今回の出来事は、私の目には特殊に映りました。事故のそのものが特殊という意味じゃありませんよ。衝突なんて決して特殊なことではない。だからガイドライン化が必要。

うまく伝わるかわかりませんが次のように思うのです。

「選手はどんなに深手を負っていても、競技には出たいと思うものだ、だからその気持ちを抑えることができる、つまり抑止力になるのは明文化されたルールだ」というのは、いわんとしていることはわかります。ただ、抑止力イコールルールとなると、私はつい生徒手帳にかいてあるような校則を連想してしまいます。ずいぶん子供っぽい理屈だと思ったんですよ。オリンピック金メダリストの暴走を止められる抑止力ってへえ、ルールなんだって。

ええと柔道やラグビーでは頭を打った場合自動的に棄権なんでしたっけ? すみません、夕方通院先の待合室のテレビでちらっと見かけただけなので、記憶が曖昧なのですが、ともかくそのルールってどうして存在するようになったのかって考えました。それはつまり「選手を守るため」ですよね。指導者、コーチ、監督、選手の関係者に対して、「脳しんとうを軽く見て、自分の権力を乱用して、選手を試合に参加させちゃ駄目なんだからね!」という念押しであって、今回のように「死んだってかまわない」つまり「守ってくれなくて結構です」ぐらいに思っている選手に対するものとしては本来想定外だったと思うんです。まあ、自動的っていう以上は強引に適用されるんでしょうけど。

そういう意味で私はどうかなって思いますが、考え方としてはありというのは認めます。

ところで、あの事故が仮にSP11位の選手とハンヤンの間に起こっていたとしたら、ああいう展開になっていたでしょうか?

あるいはあれがフィンランディア杯だったら? これは聞くまでもないかな。

これらのこともこの問題の特殊性を考える上で、考慮に入れるべきことだと思います。

羽生君がああいう状態でも滑ると言って聞かなくて、4分半通して最後まで演技を行った。言ってみればグランプリシリーズ1戦目でリンク上で最後まで演技をしたら、彼にとって「賭は勝ち」だったんですよ。だって、ファイナルに進出するための可能性を最低限残すべく、よく言えば冷静に、まあ私の言葉でいえばあくどく、要素の構成を微妙に変えたのでしょう?

彼は選手生命を担保にした賭に勝っただけの話です。それが簡単なものではなかったことは十分に承知しています。でも私には美談に思えません。

それを止めようとしなかった周りのスタッフが悪い、周りの責任として、みなさんは片付けたいかもしれません。そうすれば羽生君も含めてあの最終グループにいた選手たちもこれ以上傷つくこともなく丸く収まりますしね。周りのスタッフ……我らが愛する羽生君のスケープゴートには誰よりも適役ですね。

でもですね、オーサー師匠が「滑る必要はない」って強く言ったって「滑るな」って強く言ったって、羽生君は耳を傾けなかったと思いますよ。師匠は止めようとしなかったのではなくて、師匠にはもはや羽生君を止める説得力がなかったってことが、私が「お気の毒な立場でございますね」といわざるを得ない理由の一つです。

オリンピック金メダリストの師匠でさえ、耳を傾けてもらえないなら、誰の言葉だったらオリンピック金メダリストの彼を納得させることができるのでしょうね? メダル獲得では同等の立場である荒川副会長wwwwwwwww? ああそうか、プルシェンコが言ったとしたら納得したのかなあw?

親御さんが出てきて、なだめすかして言うこと聞かせるの?

それとも怒鳴りつけて言うこと聞かせるの?

だとしたら、そんなの小学生レベルの話ですよね。

オリンピック金メダリストって、ルールで強制しないと「頭やられて後遺症が残るかもしれないから棄権したほうがいい」という、しかも彼のさまざまな面倒を見てきた人たち、すなわちここでえらそうなことぶっている私なんかよりはるかに彼の身体のこと、将来のことを心から心配しているであろう身近な人たちの言うようなことを受け入れられないものなんですか? たとえば私とオーサー師匠どっちが彼のこと本気で心配しているかっていえば、間違いなく師匠でしょ? 金がらみだとかそんなこと関係ない。仮に金がらみだとしたって私よりはずっと心配してるでしょ?

羽生君は「オリンピック金メダリストたるもの」という言葉をよく用いているようです。あくまでその言葉にしたがうならば、こうとも言えます。「ええ、あなたが思っているようにオリンピック金メダリストたるもの、その立場、その言動に責任を負えるのは自分だけ。だからこそ、その自己責任のあり方が問われるんです」

もし、SP11位の選手が、彼と同じようなことを主張して、ああいった状態で6分間練習に出て、出番が来たら演技をすると言い放ったとして、いったんは棄権を納得して受け入れたハンヤンは撤回したでしょうか?

私は撤回しなかったと思います。

オリンピック金メダリストって、《ふつう》(ここで括弧書きを私がしている時点でフィギュアスケートって競技としては終わってると思いますが)一緒に戦う選手たちにとってやっぱり尊敬する対象ですよね。競技を志すものみんなオリンピックで金メダルを取りたい、どうしたらとれるんだろうって思っている。

フィギュアスケートオリンピック金メダリストは、羽生君がすでに意識しているように、その本人が望もうと望まなくとも、同じ氷上で競技する選手たちの模範なんですよ。

ハンヤンにしてみたら、金メダリストになりたければ、結果的に選手生命を引き替えになったとしても試合を放棄するものではない、と思ったかもしれない。あるいは、自分も試合を放棄しないことが、金メダリストが戦う相手にふさわしい態度だと思ったのかもしれない。自国開催とか、今年もファイナルに進出したい、とかそんなことが撤回の本質的な理由じゃないですよ。ハンヤンはそれだけ羽生君にフィギュアスケーターとして大きな敬意を抱いていたのだと思いますよ。

なので、もし、羽生君が「あれはあくまで僕の考えであって・・・(みんな同じようにすべきだなんて言っていない)」といいわけをするのならば、そもそも金メダリストたるもの、なんて言葉は使うべきじゃない。甘ったれるのもいいかげんにしろって話ですよね。

そしてもし、羽生君の周りの人たちやファンが、彼が望むように彼は金メダリストにふさわしい人間だと思っているのならば、「19歳の子供だから判断できない、理性が働かずに無茶するのは当然だ」なんて言葉は使うべきじゃない。甘やかすのもほどほどにしといたら?って話ですよね。

私は「自分の強さを周りに認めてもらえないことに対して彼は臆病だった」と思っています。そうした弱さがあることは決して悪いこと、とがめられるべきことではなく、一流の競技者たる者、誰だってそういった恐怖はあると。一般的に考えたとしても、誰でも心の弱さはあると。

繰り返しあおりますが、今回の羽生君の結果は「自分の心の弱さを隠すために無謀な賭をして勝っただけ」の話です。それを羽生君が自覚しているのならば彼自身が救われるのでしょうけどね。ファンの方々はどうかこれからの彼の4年間を本当の意味で案じて差し上げてください。

ああそうだ、スケ連? ISU? あれはこの出来事があろうとなかろうと、くそったれなのはわかりきっていることで、何をいまさら。結果がよい方向でも悪い方向でも、あの人たちは私がここで言うような選手の自己責任論を都合よく利用して責任逃れしたでしょう。

でもね、スケ連だってISUだってお偉方が来たって、彼を止められなかったと思う。ルール決めて制裁措置があったとしても、それを承知で彼は自分の考えるところの「強さを認めさせよう」としてリンクに出て滑っていたと思いますよ。意識を失わない限り。

2 thoughts on “中国杯2014の感想

  1. そうだったんだ。
    やっと、自分が何故、羽生くんに惹かれないのか、
    わかりました。

    仰るとおりだと思います。
    私は、彼の「傲慢」さが苦手だったのですよ。
    子供というのは大体傲慢なものですが、彼の傲慢さは
    子供だから、という範疇を軽く超えているように思っていたのです、
    無意識にですけど。

    彼は自分の人生を、もうただひたすらまっしぐらに駆け抜けて
    いるだけです。彼とすれ違う人達にも、また、それぞれの人生があるということに気付かないふりをして。

    けれど、もうそろそろ、まわりの人達の人生、生活にも
    興味を持って欲しいですね・・・。
    自分にしか興味が無い人生なんて、寂しすぎです。

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    • のりさま、コメントありがとうございます。

      40代の私とは違って、羽生君のこれからの4年間はそこそこ長いと思います。
      考え方も価値観も変わっていくと思いますし、スケートでもそれ以外でも色々な経験を重ねていくうちに、折り合いをつけることも出てくるでしょう。

      私は決して羽生君のスケートもパーソナリティも嫌いではないです。

      望もうと望まなくても金メダリストとして見られている以上、彼の言動は世界的にも影響力が大きくなります。そしてああいう立場になってしまうと、どうしても周辺はイエスマンばかりになりがちになる。いわゆる「いいときはみんながよってたかってちやほやしてくれる」の究極版ですよね。そして若さをいいわけにできない立場になっていることに、私は同情すらしています。
      でもそれを自覚し乗り越えられるのは彼自身の力でしかなく、誰も代わってやれないんです。

      オーサーも選手を金メダリストにした経験はあっても、金メダリストを指導することには一度挫折しているんですよね。だから彼にとってもこの4年間は未知の領域です。別に好きなタイプのコーチでもないんですけど、本当に大変なことだろうなと思います。

      今回のことも含めて、みなさん試行錯誤していけばいいのではないかと。

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