ふつうに「頭のてっぺんからつま先まで」と書くようにしようかな。

ここ数ヶ月、正直言って見た目たいしたことがない、ほかの選手と比べるのも何なので、その選手の過去の演技と比べてもたいして変わってないような演技と定義しましょうか、それでも心がこもっていそうだと「指の先まで(神経の行き届いた)」という表現を使うことが批評などで流行しているのでしょうか。とにかくやたらと見かけるし、もう表現力を表現する言葉としてデフレ状態で陳腐に聞こえてくるようになったので、ほかのよい言い回しはないだろうかと真剣に考えている最中です。

指の先まで気を遣っているっていう言葉が本当にふさわしい選手ってどれだけいるのでしょうね。 Continue reading

女子のトリプルアクセルとメンタルの強さ

リーザの練習中のトリプルアクセルを見て、もともと高くジャンプできる選手だから結構いけるんじゃないかとわくわくしたのですが、考えてみるとまだいろいろ越えなきゃいけない難関がありそうですね。

まず、3A入れてプログラム滑りきる体力があるかということにつきますね。リーザは今季あんなにたくさん試合に出て、コンスタントな成績を収めることができたわけなので、単純な体力という意味ではありそう。だからその点は期待できます。でも、本当のところ、ほかのエレメンツも損なわないように3Aを入れてたとえば4分滑り続ける、ってどれだけ疲れることなのでしょうか。

ショートプログラムならば短いから、といってもこちらは一つのミスが大きく出遅れる要因となる採点方式なわけで、普段から20回跳んで20回成功するぐらいじゃないと《ふつう》の考えの持ち主の選手やコーチならば、やめるべきだと判断するでしょう。女子なんだからやる必要ないと。そういう意味でも真央ちゃんは価値観が《ふつう》じゃなかった。信夫先生だって3Aやってもいいだろうと「心から」ゴーサインを出したのはソチ五輪の年だけだったと思います。

そういうこと考えると、あのとき真央ちゃんのコーチがタラソワ先生でよかったと思うんです。あなたが3Aをやらなくてどうする、という考えの人だったわけでしょ? タラソワ先生についていなかったら真央ちゃんの3Aはシニアでの最初の2~3年でおしまいになっていたかもしれない。

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Number 1月8日号現在でのクイズ

Numberの該当号やネットの情報を見ないで、以下の選手(敬称略)と身長を正しく組み合わせてみましょう。

①トゥクタミシェワ ②ラジオノワ ③ポゴリラヤ ④リプニツカヤ ⑤グレーシー・ゴールド ⑥村上佳菜子 ⑦宮原知子 ⑧本郷理華 ⑨樋口新葉 ⑩今井遥 ⑪本田真凜 ⑫永井優香

(a)166cm (b)163cm (c)162cm (d)161cm (e)160cm (e)160cm (f)159cm (g)157cm (h)155cm (i)147cm (i)147cm (j)145cm

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グランプリファイナルバルセロナについての殴り書き

私もここに来てグランプリシリーズの疲れが出ているんでしょうか。年間を通じて同じことを同じレベルですらキープするのが難しいと思うこの頃です。

グランプリファイナルについてメモ

  •  日本企業のスポンサー:看板の色は各企業のロゴのオリジナルの色のまま。1色に統一1色に統一されていない
    • コーセー
    • IHI(昔の石川島播磨)
    • アコム
    • CANON
    • シチズン
    • 木下グループ
    • マルハン

よく考えたらファイナルの公式サイトを見ればわかるんですけどね。あ、でもIHIが公式サイトには出ていない。ISUとIHIを見間違えたかな? やれやれ……。

  • アシュリーが台乗り。男女ともにSPが終わった時点で、これがデスブログ化していて、もう今シーズン回を重ねるごとに感じてきた妙な説得力のアシュリーが台乗りしなかったら予想もどきはやめようと思っていたところでした。入り方の工夫とか出方の工夫という意味においても、ムーラン・ルージュってそれなりには凝ったことやってはいるわけで、これもし同じことを羽生君がやっていたら滑るごとに実況や解説は大騒ぎでしょう。ぐっと入ってきて一度ファンスパイラルのポーズをして足を下ろしてからカーブで曲がっていってボーカルとのタイミング見計らってアクセルジャンプ、しかもその着地をきっかけにビートを刻む音が始まるように逆算して飛ぶ。案外簡単じゃなさそう。とはいっても、エキシでも違う曲だけど全く同じ場所で同じ入りと出をやっているようなので(ジャンプはほかのジャンプだったかな)、単に彼女の十八番なのかもしれませんが。
  • ジャパンオープンのときなんて、この延々とボーカルが続くプログラムはうるさいだけで全然かみあってないと思いました。それでもスケートカナダを終えて、しばらくしてエリック杯が近づいたときになんだか見るのが楽しみになり、ファイナルの前は「案外台のりするかも」なんて期待してしまってたわけで、シーズンを通して「芸術性」に関する印象って変わっていくものなのでしょう。滑りを音にはめるという意味においては、ボーカル付きの歌の方が簡単そうに見えて実はボーカルなしよりも難しいのではないかと、アシュリーのこのプログラムを見続けて感じます。滑る速度を自在に変えますよね。若手は疲れない限りみんな一本調子に見えるのだけど、これが織田先生がいうところの「緩急のつけかた」なのかもしれません。
  • 音のはめ方という意味では、ラジ子はSPみたいな曲のほうが本領発揮できるんだろうなと思いますし、逆にFSではリプたんのほうがラジ子よりも音にはまっているように見えました。でも結局ジャンプを成功させないとそういった良さは「ふつうは」得点に反映されませんよね。
  • どうでもいいことなんですけど、さいたまワールドの時はリプたんと新宿御苑をお散歩したいと思ったけど、ファイナルではバルセロナの海岸をお散歩したいと思いました。私にとって彼女はそういう存在です。
  • 今シーズンを通してリーザはすばらしいカムバックを成し遂げたと思います。優勝も賞賛に値すると思いますし、がんばりが報われてよかったとつくづく感じます。FSも彼女に合ったおもしろいプログラムだと私も思います。でも、言われるほど足下が、つまりスケーティングが際だっていいようにはシーズン通して思えなかった。これはよく指摘されていたことなのかもしれませんが……。手の動きも独特だけど実際リズムに合っているのか?とか。彼女に限らずグランプリシリーズ見ていて、スケーティングの良さってどこをどう評価されるものなのだろうと思います。でもキャラ的には大好きですし、一つの個性、スタイルを確立しているというのは女子選手として珍しいことで、その点はものすごくいいと思う。それに練習好きのようだからこれからもよくなるんだろうなと思います。
  • 猫背の話。ラジ子って実は肩が内側に入りぎみの猫背体型だと思うんですよ。でも、そのいわばハンデを見ている人たちに感じさせないようにとりわけ力を入れて体を伸ばしているのがわかる。大変だと思います。しかもそんなしんどさを表情に一切出さないどころか、あふれんばかりのスケートに対する喜びが感じられるのってすごいですよ。ただひとえに今後の腰痛が心配。なお、毎年見る限り、採点上、姿勢がよいか悪いかというのは審査の対象にはなっていませんし、私はよく猫背が気になるってよくツイートしますけど、だからといってその選手のPCSやGOE下げろとか高すぎるとかそういうことを言いたいのではありません。
  • 理華ちゃんの猫背も以前ほどは気にならなくなったのですが、どうなんでしょうね。SPでは手の動きにやわらかさを出そうとしているのかもしれませんが、力がただ抜けてだらんだらんとしているように見えるのが残念。かえって腕が長いからそういうところが目立ってしまうように思うのです。けれども逆に言えば理華ちゃんってまだまだ色んなところに伸びしろがあるということなんですよね。現時点でこれだけ点数が出ている、SPなんて私がそんな風な印象を抱いているのにもかかわらず、パーソナルベストを出したわけです。ならば、もっともっとこの先高い点数を望める。これってすごいこと。
  • 羽生君のSPの点はあんなものでしょう。ただ、もはや体力的に問題がなければ、トリプルアクセルの位置は元に戻した方が絶対に曲の流れに合っていると思います。あの組み合わせはかなり早い時点でくるからぐっとくる。FSに比べてまだ入り込めてないというか、客観的に音を表現しようとするあまり気がそぞろな印象を私は受けるのですが、その辺は見る人次第なのでしょう。次は全部ジャンプが決まるといいですね。
  • 羽生君のFSはよかったと思います。実際、最後の転倒も印象に残らなかったし、ということはよい演技だったからこそ。この曲の場合、これ以上余計なことしないほうが、彼の個々のエレメンツの技術力や、アピールどころがはっきりするので、こっちはこのままこの調子でいけばいいと思います。でも、だからといってこれが一つのフィギュアスケートのプログラムとしてほかの誰よりもいいプログラム、というか羽生結弦ならではの作品といえるほどのインパクトがあるのか、といえば違うと思う。シェイ=リン・ボーンの振り付けとして見るならば、オペラ座の怪人よりはムーラン・ルージュのほうが選手のよさをアピールする出来になっているような印象を受けます。
  • というか、すごいことやっているという先入観や解説なしに、彼のファンでなかったとしても退屈させないスケーターにこの先なれるかどうか、ある意味ここがまさに正念場かも(髙橋君の競技生活晩年がすごかったと思うのは、別にものすごいファンじゃなくても彼の演技を見てわくわくさせるものがあったこと。少なくとも退屈することがなかったということなんですよね。若いときは「ああ、またか?」と思う部分があったのだけど、バンクーバーイヤーあたりからそういうマンネリ感がなくなったと思うんです)。ここはこういう意味、こういうことをやっている、こういうことを意図しているんですよと、と言葉で細かく説明して観客……というかメディアとファンが感心するというやり方を今後も続けるのはどうかと思うし、すごく心配。競技として点を取れるのだからオペラ座の怪人だってよいプログラムであることは確かでしょう。でも、来年、おそくとも再来年で一皮むけないと、3年連続世界王者だったのに4年目にただ飽きられてしまったかのような評価を受けた選手の二の舞になりかねない。とはいえとりあえずまずは、次は全部ジャンプが決まるといいですね。
  • 無良君のPCSはそんなものなのかなあ。カルメンもオペラ座も。比べる対象として適切かどうかはともかくとして、たとえばリーザの場合、「手の動きがすばらしいですね」なんて解説で言われるけど、私にはそんなふうに思えません。少なくとも彼女のストロングポイントはそこじゃない。そこが評価の対象になるというなら、無良君はファイナルの男子6人の中で一番腕の動き、手の動きが優雅だと思います。ただただ美しい。今年力を入れたというステップやつなぎの箇所、彼も注目してほしいと言っていたけど、そんなこと言われなくても、ほんとうにきれいですばらしい出来。微妙にためがあるところがいい。でも大げさじゃない。ジャズ好きの人がよく使う「ちょっとなまっている感じ」。伝わりますでしょうか?
  • もう今回ハビエルは出ることに意義があった、ということで。PCSあんなものなのかなあ(無良君と逆の意味です)。
  • コフトゥンもヴォロノフも、ハビエルとそんなに差がつくもんなのでしょうか。ハビエルのFSのほうが小細工が多いんでしょうけど。それにしても。
  • 町田君のFS。ジャンプがあれだけ決まらないのにそれ以外はキレキレのキレがあるというパターンもある意味珍しいですよね。普通、ジャンプのできに引っ張られてすべてがグダグダになるのに。だからあんなにPCS下がるとは思わなかった。とはいえ、ある意味75.08という評価は妥当でしょう。IMG_3387
ごめんなさい、どうしてもこの3人が並んでいる絵を見ると笑ってしまうのです。独特の世界ですよね。全日本の巻き返し期待しています。集大成のプログラムの公演一つ一つに注目していますよ。

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中国杯2014の感想

そろそろみなさん正常性バイアスから目が覚めた頃でしょうか?  肝心の関係者は「本人が大丈夫って言ったんだから大丈夫なんだ、簡単なチェックでは一応ちゃんとしてたし」っつうバイアスから冷めていないふりをしているようですけどね。今回に限っていえば、私はその人のことを、まったくお気の毒な立場でございますね、と思っています。

その一方で、自分が長いこと所属している業界のお偉いさんと、新たに所属するようになった業界の熱血先輩を相手に、自らが飲み込まれそうな状況に追い込まれてもなお、多数派同調性バイアスにひっかからなかったという織田信成先生。「無理しないように、これ以上けがのないようにしてもらいたいですね」でしたか、そのお言葉はあの状況ではあまりにも端的で、あらためて振り返ってみるとじわじわ来るものがあります。

やり直した6分間練習中、ほかの4人の選手は、ものすごく羽生君自身のことを心配していたと思いますよ。それに加えて自分のことも心配しなければならなかった。シャキッとしているとは思えない羽生君がいきなり倒れてきたらよけきれるのだろうかと不安や恐怖を抱えながらジャンプとか練習していたのでしょうか。「これ以上けがのないように」の主語は必ずしも当事者の羽生君やハンヤンだけを指しているのではなかったのかもしれませんね。

実際、彼ら二人があの状態で演技をしたせいでそれぞれの体調がよけいにおかしなことになったのかは、今となってはもうわかりません。二人ともあえて自己責任という形で、ああやって棄権せずに演技をしたのですから、仮に演技をしたことによって体調が悪化したとしても、本当のところは二度と伝わって伝わってこないと思います。自己責任のレベルの話なのだもの、それに付随したよろしくないことを言ったとしても、それはすべて言い訳に受け止められてしまうから。

まずはいったん、中国杯について。感想は今回もメモ取っていなかったのだけど、もう記憶がふっとんじゃった感じ。

  • 日本からのスポンサー看板(今回キャプチャなしです。後日気力が戻ったらやるかも)
    • 高須クリニック
    • ビジネスローン ビジネクスト(アイフル子会社の商工ローン)
    • ほけんの窓口
    • ANA
    • ヒト・コミュニケーションズ(ビックカメラ子会社の人材派遣会社)
    • ダイナム(大手パチンコホールチェーン)
    • JACCS(信販系クレジットカード会社)
  • ギャビー・デールマン大躍進。ジャンプも確かに見栄えがするし、健康的でよろしいかと思うのですが、その反面、「きっとどの曲でも同じ構成で同じ要素の順番で同じ振り付けになったんだろうな」感が拭えませんでした。その印象が正しいのか的外れなのかは来年わかることでしょう。私のひとりよがりな偏見でありますように。
  • 後輩1か2のフリーはスケカナよりはスピードあったように思うけどわかりません。前回アナウンサーは織田先生から「(先輩)金妍児(を彷彿させるような)」という言葉を引き出そうとしていたのが見え見えなのに先生はそれをスルーしました。今回アナウンサーは自ら「金妍児を思い起こさせるような演技ですね」みたいに話をふったところ、先生は「はい」とたった一言。でも今回のほうが前回に比べれば少し具体的にスケートについて褒めていたと思います。
  • 佳菜子ちゃん:SP/FSともに何を表現したいのかということが伝わってくるという意味では期待していた以上によかったです。ジャンプ決まればこの試みは大化けするかも。
  • ジジュン:何がどうだろうと、かわええ。ムーンリバーの途中であのピアコンになっちゃうアレンジ面白いですね。ローリーが選んだのでしょうけど、あの人は曲選びに関しては本当に引き出しが多いし、選手に合うような曲持ってくる。それなのに、なぜGGに対してはああなっちゃうの?
  • リプたん:何がどうだろうと、とりあえずかわええ。去年と比べてスケーティングがすごく変わったわけでもないような気はしますが、難しい年齢なので、連戦連勝じゃなくても、とにかくめげずに続けていくことに価値があると思いました。
  • リーザ:SP/FS/エキシビションとも何をどうやるのか、すっかりわかっていてもまた見たいとみんなに思わせてしまうという意味で、ここまで来るとやっぱりこの子すごいんじゃないかと思うようになりました。なんだかんだ言っても個性的で愛されるキャラクターって、審査する側の主観によって左右されてしまうこういった競技の場合、ものすごいストロングポイントですよね。ある意味3回転ルッツのできばえ以上に。
  • ナムくんのSPに関しては、前回のスケアメのときのほうがよかったように思います。「あれ、ショートもこんなに滑らなかったっけ」と思いました。そしてしみじみ、ハンヤンはうまいんだなあって。ジャンプの調子が悪そうでしたが、すいすいすいすい滑っていくのでそれだけで見ていて気持ちがよかった。だからFSもすっごく楽しみにしていたんですよ……でもそれは次回にとっておきます。すいっと一蹴りのスケートが滑る人って、ああいうジャジーな曲合いますよね。フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーンはぴったりだと思います。(話はそれますが、たとえばPチャンはジャズ滑ってるときが一番良さがでていると思う)
  • くどいようですが、全般的に中国の選手ってすいすい滑るのでジャンプ決まらなくても見てて気持ちいいです。
  • 後半のジャンプが決まらなかった以外は羽生君のSPは期待していた以上によかったと思いました。私はフィギュアスケート男子シングル史上最高のプログラムの曲があまり好きではないので、早いことこのプログラムでそれを塗り替えてほしいと思うほど期待しています。フリー? あれ見せられて《プログラムとして》どうかなんてどう話せっていうんですか?
  • ミーシャ:とりあえずできるジャンプは全部決めれば全体がしまってきますよね。ステップワークそのものの細かいところが昨年と比べて劇的に変わったのかどうかはわかりません。たとえばシェルブールの雨傘でステップ・コレオ二つのシークエンスの情熱の込め方をはっきりと差別化していたのは、単純とはいえうまいやり方だと思いました。エキシビションについては、これを一晩で用意したってことですよね。すごいですね。よくも悪くも決まったことしか繰り返せないスケーターだってたくさんいるであろう中で、そういうクリエイティヴな才能があること自体、貴重だと思います。まだ現役選手なのにこんなことを言うのは本当に失礼なのですが、彼は将来、たとえばコーチであっても、振り付け師であっても、生徒にとってきっといい教え手になれるのではないでしょうか。
  • けがをしなかったFS最終グループの人たち:もう、よくやった…としか言いようがない。残念だけどそういう記憶しかありません。
  • コフトゥン:SPかっこよかったよくやった、FSものすごくがんばったよくやった、エキシかわええ。ほんとかわええ。

さて。

ああいう事故が起こったときに、「選手を救うための医学的処置」を明確にガイドライン化することは必要だと思います。もしそうした方法があの業界の中で共有化されていないのならすぐさま取りかかるべきです。

その反面、今回の出来事は、私の目には特殊に映りました。事故のそのものが特殊という意味じゃありませんよ。衝突なんて決して特殊なことではない。だからガイドライン化が必要。

うまく伝わるかわかりませんが次のように思うのです。

「選手はどんなに深手を負っていても、競技には出たいと思うものだ、だからその気持ちを抑えることができる、つまり抑止力になるのは明文化されたルールだ」というのは、いわんとしていることはわかります。ただ、抑止力イコールルールとなると、私はつい生徒手帳にかいてあるような校則を連想してしまいます。ずいぶん子供っぽい理屈だと思ったんですよ。オリンピック金メダリストの暴走を止められる抑止力ってへえ、ルールなんだって。

ええと柔道やラグビーでは頭を打った場合自動的に棄権なんでしたっけ? すみません、夕方通院先の待合室のテレビでちらっと見かけただけなので、記憶が曖昧なのですが、ともかくそのルールってどうして存在するようになったのかって考えました。それはつまり「選手を守るため」ですよね。指導者、コーチ、監督、選手の関係者に対して、「脳しんとうを軽く見て、自分の権力を乱用して、選手を試合に参加させちゃ駄目なんだからね!」という念押しであって、今回のように「死んだってかまわない」つまり「守ってくれなくて結構です」ぐらいに思っている選手に対するものとしては本来想定外だったと思うんです。まあ、自動的っていう以上は強引に適用されるんでしょうけど。

そういう意味で私はどうかなって思いますが、考え方としてはありというのは認めます。

ところで、あの事故が仮にSP11位の選手とハンヤンの間に起こっていたとしたら、ああいう展開になっていたでしょうか?

あるいはあれがフィンランディア杯だったら? これは聞くまでもないかな。

これらのこともこの問題の特殊性を考える上で、考慮に入れるべきことだと思います。

羽生君がああいう状態でも滑ると言って聞かなくて、4分半通して最後まで演技を行った。言ってみればグランプリシリーズ1戦目でリンク上で最後まで演技をしたら、彼にとって「賭は勝ち」だったんですよ。だって、ファイナルに進出するための可能性を最低限残すべく、よく言えば冷静に、まあ私の言葉でいえばあくどく、要素の構成を微妙に変えたのでしょう?

彼は選手生命を担保にした賭に勝っただけの話です。それが簡単なものではなかったことは十分に承知しています。でも私には美談に思えません。

それを止めようとしなかった周りのスタッフが悪い、周りの責任として、みなさんは片付けたいかもしれません。そうすれば羽生君も含めてあの最終グループにいた選手たちもこれ以上傷つくこともなく丸く収まりますしね。周りのスタッフ……我らが愛する羽生君のスケープゴートには誰よりも適役ですね。

でもですね、オーサー師匠が「滑る必要はない」って強く言ったって「滑るな」って強く言ったって、羽生君は耳を傾けなかったと思いますよ。師匠は止めようとしなかったのではなくて、師匠にはもはや羽生君を止める説得力がなかったってことが、私が「お気の毒な立場でございますね」といわざるを得ない理由の一つです。

オリンピック金メダリストの師匠でさえ、耳を傾けてもらえないなら、誰の言葉だったらオリンピック金メダリストの彼を納得させることができるのでしょうね? メダル獲得では同等の立場である荒川副会長wwwwwwwww? ああそうか、プルシェンコが言ったとしたら納得したのかなあw?

親御さんが出てきて、なだめすかして言うこと聞かせるの?

それとも怒鳴りつけて言うこと聞かせるの?

だとしたら、そんなの小学生レベルの話ですよね。

オリンピック金メダリストって、ルールで強制しないと「頭やられて後遺症が残るかもしれないから棄権したほうがいい」という、しかも彼のさまざまな面倒を見てきた人たち、すなわちここでえらそうなことぶっている私なんかよりはるかに彼の身体のこと、将来のことを心から心配しているであろう身近な人たちの言うようなことを受け入れられないものなんですか? たとえば私とオーサー師匠どっちが彼のこと本気で心配しているかっていえば、間違いなく師匠でしょ? 金がらみだとかそんなこと関係ない。仮に金がらみだとしたって私よりはずっと心配してるでしょ?

羽生君は「オリンピック金メダリストたるもの」という言葉をよく用いているようです。あくまでその言葉にしたがうならば、こうとも言えます。「ええ、あなたが思っているようにオリンピック金メダリストたるもの、その立場、その言動に責任を負えるのは自分だけ。だからこそ、その自己責任のあり方が問われるんです」

もし、SP11位の選手が、彼と同じようなことを主張して、ああいった状態で6分間練習に出て、出番が来たら演技をすると言い放ったとして、いったんは棄権を納得して受け入れたハンヤンは撤回したでしょうか?

私は撤回しなかったと思います。

オリンピック金メダリストって、《ふつう》(ここで括弧書きを私がしている時点でフィギュアスケートって競技としては終わってると思いますが)一緒に戦う選手たちにとってやっぱり尊敬する対象ですよね。競技を志すものみんなオリンピックで金メダルを取りたい、どうしたらとれるんだろうって思っている。

フィギュアスケートオリンピック金メダリストは、羽生君がすでに意識しているように、その本人が望もうと望まなくとも、同じ氷上で競技する選手たちの模範なんですよ。

ハンヤンにしてみたら、金メダリストになりたければ、結果的に選手生命を引き替えになったとしても試合を放棄するものではない、と思ったかもしれない。あるいは、自分も試合を放棄しないことが、金メダリストが戦う相手にふさわしい態度だと思ったのかもしれない。自国開催とか、今年もファイナルに進出したい、とかそんなことが撤回の本質的な理由じゃないですよ。ハンヤンはそれだけ羽生君にフィギュアスケーターとして大きな敬意を抱いていたのだと思いますよ。

なので、もし、羽生君が「あれはあくまで僕の考えであって・・・(みんな同じようにすべきだなんて言っていない)」といいわけをするのならば、そもそも金メダリストたるもの、なんて言葉は使うべきじゃない。甘ったれるのもいいかげんにしろって話ですよね。

そしてもし、羽生君の周りの人たちやファンが、彼が望むように彼は金メダリストにふさわしい人間だと思っているのならば、「19歳の子供だから判断できない、理性が働かずに無茶するのは当然だ」なんて言葉は使うべきじゃない。甘やかすのもほどほどにしといたら?って話ですよね。

私は「自分の強さを周りに認めてもらえないことに対して彼は臆病だった」と思っています。そうした弱さがあることは決して悪いこと、とがめられるべきことではなく、一流の競技者たる者、誰だってそういった恐怖はあると。一般的に考えたとしても、誰でも心の弱さはあると。

繰り返しあおりますが、今回の羽生君の結果は「自分の心の弱さを隠すために無謀な賭をして勝っただけ」の話です。それを羽生君が自覚しているのならば彼自身が救われるのでしょうけどね。ファンの方々はどうかこれからの彼の4年間を本当の意味で案じて差し上げてください。

ああそうだ、スケ連? ISU? あれはこの出来事があろうとなかろうと、くそったれなのはわかりきっていることで、何をいまさら。結果がよい方向でも悪い方向でも、あの人たちは私がここで言うような選手の自己責任論を都合よく利用して責任逃れしたでしょう。

でもね、スケ連だってISUだってお偉方が来たって、彼を止められなかったと思う。ルール決めて制裁措置があったとしても、それを承知で彼は自分の考えるところの「強さを認めさせよう」としてリンクに出て滑っていたと思いますよ。意識を失わない限り。

スケートアメリカ2014の感想

グランプリシリーズ初戦の感想です。技術的なことはもうよくわからないので。

  • スポンサー看板:大山式が気になるという話は目にしましたが、なんといってもLife CARD(アイフル子会社)。やっぱり消費者金融会社の目には、高いお金を払ってフィギュアスケートを見に来るような人々は潜在的顧客層として映るのでしょうか。
    skateamerica2014lifecard

    スケ連はしらばっくれてるみたいだけど、アイフルはグランプリシリーズのスポンサーなんでしょうね。
  • BSフジでやっていた「フィギュアスケート日本 期待の若き星たち」の録画を見ました。今年の期待の若き星でまずは紹介しておかなければならない人って宮原さんじゃないの?と思ってたので拍子抜け。羽生君を見ていて思ったのは、彼は良くも悪くも自分の演技を具体的に解説しすぎだということ。賢いせいか答えが親切すぎです。どういうものを表現したいかを具体的に説明しすぎちゃうと、ファンにとって彼の演技を見たときの印象や解釈の自由が狭まっちゃって興ざめではないか心配。たとえば町田君も自分の作品について雄弁ですが、ティムシェルだの極北だのしゃべっている割には「実際に見てみないと意味がわからない」じゃないですか。その違いは大きい。で、町田君の二つの演目の初演、お見事でした。
  • 男子SPの前にThe Skating Lessonのツイートを読んでしまったのでついついそういう目で見てしまうのだけど、ほんとおもしろいですよね。

    町田君の何がおもしろいって、誰かほかのスケーターではなくて過去の自分に対してトリビュートしてしまうところでしょうか。彼の場合エキシビションで演目を選ぶときにそういうところがあるように見受けられますが(実際今回のエデンの東もそうだろうし)、今回のSPの振り付けも意図的にやっているんですよね、きっと。

  • 採点の基準、結局よいとされる演技とはなんぞやということが私にはわからない。ポイントの高いジャンプを成功させさえすればあとは凡庸でも点にはひびきにくいというしくみだと頭ではわかっていますよ。ジャンプ以外の要素が凡庸に見えてもレベルクリアしていればいいわけだから。たとえば、私はナムくんのFSよりはSPのほうが、はるかに好きなプログラムで良かったと思いますが、そういうこと書いちゃうと「クワドサルコウを成功させて、しかもかわいらしいんだからケチつけるな」「年齢の割にはよくやっていると思う」という返しをされるのでしょう。そもそもグランプリシリーズという場に出てこられるんだから、年齢の割によくやっているどころか年齢以上によくやってるのはもちろんのこととして理解しています(ラジ子ちゃんもしかりです。フィギュアスケートを見せる一つの作品としてはどうなの?とは思いますが)。勝ち気そうだし、茶目っ気を出せるところがいい。繰り返しになりますがナムくんのSPはいいと思いました。だから順位的にそんなもんなの?と驚いたぐらいです。彼の本来持っているスケーティングの良さの部分も出やすい振り付けになっていると思う。結局私の好みの問題なんでしょうけど、全般的にああいう曲調のプログラムはもっと評価されるべきだと思っています。
  • つまりカメレンゴ/髙橋の「道」は傑作だったんですね。ウィルソン/グエン版を見てしまうと「道」である必要があるの?なんて思ってしまうけど、そんなこと言ってたら今年は「オペラ座の怪人」である必要があるの?って話になる。それこそ「ローリー・ニコル」で「グレーシー・ゴールド」で「オペラ座の怪人」である必然性がまったくわからない。逆に言えば佳菜子ちゃんの怪人と女優を2つの演目で演じ分けるという試みはいい線いっているので、彼女にとって今年はものすごいチャンスだと思います。町田君が世界的に「まあまあだけどその他大勢」的な立場から、エデンの東を名刺代わりに「ほかの誰でもない町田樹の個性」を世界にプレゼンテーションしたときのように。
  • フェリーニの「道」のおそらくファンタジー的な部分、優しさと切なさをあのように抽出したカメレンゴさんと髙橋君の作品はすごいわけですが、それはあくまで彼らの解釈。でもウィルソン/グエン版は、深く考えずにカメレンゴ/髙橋版をベースにしてしまっているように私には見えてしまう。結局、何が言いたいかというと、ナムくんのFSを見て、私はあの映画を再見することが必要だと認識したこと。そして、オーサー組は他の人がやったことないような曲をもっともっと発掘した方がいいのではないかということ。元々勝つための戦略立てるのうまいのだから、選曲で冒険できるじゃないですか。
  • 私もサム・シーザリオの演技はSPもFSもよかったと思います。フィギュアスケートがジャンプだけじゃないというのを思い出させてくれますし。
  • エキシビション:ラジ子ちゃんとサムさんのホイットニー・ヒューストンどちらが好きかといえば、サムのこちらの曲のほう。Whitneydebut
    80年代リバイバル。ワオ。本当にめちゃくちゃ売れた曲だよねえ。ああ、デビュー時のホイットニー・・・。
  • グレーシーはなんで今回のエキシビションみたいなノリのよい曲を競技でやらないんだろう?
  • リーザ・トゥクタミシェワ。わかった、もうわかった。我こそアディオス・ノニーノと主張したいのはわかった。そうだよ、そのとおり、去年のヨナよりずっといいのはわかってる。それとも私が彼女を見かけるときに限ってこの曲が出てくるの?
  • そのアディオス・ノニーノのときアナウンサーが「去年この演技ができていれば、ソチ五輪でも彼女がメダルを取っていたかも」というようなことを言っているわけですよ(私も彼女のキャラは好きとはいえ「そこまで言えるか?」って強力押しにびびった)。「むしろこの演技ばかりだったからダメだったんじゃね?」と突っ込みを入れてしまいました。荒川番長もずっと解説やってるんだから、リーザの見たまんまの色気と貫禄のことだけじゃなくて、この曲との腐れ縁についてコメントしろって。
  • 無料で見られるグランプリシリーズのテレビ放送を大会全部、つまり男子と女子シングルとエキシビションを録画してすべての演技をその日の晩に見るということをやったのは今回初めてなんですけど、それだってペアやアイスダンスは含まれない。そこで、素朴な疑問。こういう試合をライストだろうとなんでも全部見て、場合によってはブログに記事書いているようなスケオタさんたちっていつ寝てるんでしょう? どうやって生活してるんですかね。廃人状態になっていないか心配です。仕事でもないのに4時間も睡眠に割けてないですよ。これがこの時期週2~3日ペースで毎週続いていくわけですよね。ですので、荒川番長をはじめ、フィギュアスケートの解説者のほとんどが基本的に「その場で思いついたことしか話さない」のは今回で納得しました。解説のためにスケーターたちの過去の演技を見直して勉強なんてする時間なんて物理的に捻出できなさそう。だから居酒屋は居酒屋で、安藤美姫が安藤美姫になるのは当然の帰結なわけで、素が出ざるを得ない。「荒川静香があんな調子なら織田信成が女子の解説もやればいい」なんて言うのは酷です。いくら素がよいからといっても、過労で死んでしまうわ。
  • お約束ですかね、真央ちゃんについて。男女シングル両方すべて見て感じたのは、真央ちゃんみたいに1つの曲の中でスケーティングによって緩急をつけることができる人ってほんと少ないということです。たいていの場合、手振りとか顔の表情を大げさにすることによってメリハリをつけようとして、最後の方は力尽きる。だから去年のノクターンにしてもピアノコンチェルト2番にしても、ぐわーっと加速させていくところとか、リンクの端から端までどころか、それじゃ足りなくてカーブして戻っていくほどのスケーティングってとてつもなかったんだなとあらためて。
  • スケートカナダどうしよう。