二十数年ぶりに理解する

もうね、ラジオで真央ちゃんの声を聞くだけで最近涙ぐんでしまうのってどうなのと。なんで「姉の舞とカラオケで歌う」とかいうキロロの歌を聞いて泣いてしまうのってどうなの(決して好みの曲でないにもかかわらず)。こんな調子じゃ真央ちゃんが試合で滑ってるところ見るたびに号泣してしまうのではないかと。

最終滑走で悪夢のSPとなったあれをもってしても、最終滑走が好きだとしみじみ言ってしまうのはなんなんでしょう。そうやっていろんなしんどいことを乗り越えてきたのかなと。

さて、話はさかのぼりますが、ラジオでの伊藤みどりさんとの対談について。

伊藤みどりさんと私は年齢がさほど変わらないので、実際みどりさんが選手として活躍していた10代の頃、テレビで彼女の特集があると興味深く見ていました。みどりさんが下宿していた満智子先生のお宅での取材もなんとなく覚えています。同い年だという先生のお嬢さんもインタビューされたり。今となっては有名な満智子先生との出会いの話も当時テレビから知ったわけです。

自分と年がそんなに違わない女の子が日本一フィギュアスケートがうまくて、しかもジャンプだけ見れば世界一なのですから、ただただ感心するばかりでした。やっぱり同年代の日本人の女の子を応援したくなりますので、新聞のスポーツ欄をチェックして「伊藤みどりは何位スタートなんだろう……」とため息ついたり(コンパルソリーがあった時代ですからね)、「これからプログラムでどこまで追い上げられるのかな」などと予想したりしていたわけです。

カルガリーオリンピックの中継を見ながら私もガッツポーズをしながら応援し、その後みどりさんが優勝した世界選手権はそのカナダで中継放送を見ました。ウィンタースポーツが盛んな国で日本人選手の初の世界選手権金メダルを見られたなんて、日本人として誇らしかったのを覚えています。そして、私もほかの日本人の多くの人たちと同様、アルベールビル五輪でみどりさんの金メダルを期待していたわけです。

調子が悪いらしい、でもみどりさんなら優勝するに違いないと。

でも、ご存じの通りのいきさつで(そして後述の書き起こしの通り)、アルベールビル五輪ではフリーで一度3Aを失敗したのにもかかわらず、後半に3Aをあえて入れ直して決めましたが、総合順位としては追いつかず金メダルは取れず、その試合を最後にみどりさんは引退してしまいます。

「その次のリレハンメル五輪はたった2年後なのにどうして引退しちゃうの? 金メダル取れるチャンスがまだあるのに?」と、当時私は思いました。「まだ年齢的にもじゅうぶんできそうなのに」と、自分自身歳が近いのでそういう思いが強かったです。みどりさんの実力は抜きんでているのに、オリンピックの金メダルという名誉をどうして投げ出してしまうのかと。今から思うと失礼な話ですが、ヤマグチの金メダルなんてみどりさんが失敗したから棚ぼたでもらえたようなものだとまで思っていました。

実母は「フィギュアスケートってお金かかるのよ。もうプロにならないと余裕がないんじゃないの?」と身もふたもない本当かどうかもわからない理由を挙げ、私は「スポーツもすべてカネ次第」と「誤解したまま」納得しようとしていました。

ところが、先日のみどりさん・真央ちゃんの対談で、みどりさんの口から彼女がどういう思いでスケートに取り組んできたかを聞いて、どうしてああやってアルベールビルの後にスパッとやめられたのかが二十数年ぶりにわかった気がします。

そう、みどりさんはいつも「自分が人々に見てもらいたいものは何なのか」、それをいつも考えていたからなんですよね。オリンピックで自分が見せたいものを見せることができれば、彼女の場合自動的に、みどりさんの言葉を借りれば「結果的に」金メダルはついてくるのだからそりゃ金メダルという話にもなりますが、彼女の場合、ひたすら「何を見せたいのか」だけにこだわってきたんですよ。そういう意味でみどりさんは本物志向の職人気質だなあと思います。だから、その「結果でしかない」金メダルは、彼女がスケートをやる本質には直接関係ないものだった。スケートをやるためのモチベーションではなかったんですよね。

以下ざっとラジオでの対談での書き起こしです(言い回しは意に沿って少し直しています)。

トリプルアクセルについて
真央:「トリプルアクセルについてお伺いしたいのですけど、まずトリプルアクセルを練習し始めて完璧に跳べたのはいつごろになるんですか?」
みどり:「中学校……3年生で、練習では跳んでましたね。で、いろいろNHK杯とか試合で挑戦していったんですけど、結果的に試合では跳べませんでしたので、それから足を治して、NHK杯でも一応跳びましたけど、それよりも世界選手権で成功するのが19歳。それでやっと認定されてギネスに載ったときはやっぱりうれしかったですね。真央ちゃんはいくつなんですかね?」
真央:「んー、完璧にやっぱりこうクリーンで跳べたのは初めての世界ジュニア……キッチナーのときですかね。中学校2年生か3年生だったと思います。でも、みどりさんの場合は女子では初めてだったじゃないですか。やっぱりチャレンジすることによって失敗とかもあったと思うのですけど、で、やはりみんなやってない中でやるってどういう気持ちだったんですか?」
みどり:「基本的に伊藤みどりのスケートっていったらジャンプしかないので。真央ちゃんみたいにね、かわいくてきれいで可憐で妖精だったらね、別にそんなに難しい技、その時代にそんな難しい技をしなくてもトータルなプログラムで見せればよかったとは思うんですけど、やっぱり技術的なものは自分の持ち味、じゃあ世界に行ったときに自分の持ち味は何ですか?見せたいものは何ですか?っていわれたときに、やっぱりトリプルアクセルとか、5種類の3回転ジャンプを見てもらうことが、こう自分の中でモチベーションになっていましたね。できようが失敗しようが成功しようがそれを見せに行くっていうことが、それがエネルギーとなってプログラムに臨んでいましたね」
みどりさんに是非聞いてみたかったこと
真央:「スケート人生、やはり最後にはこう、自分でスケート人生を終えるっていう時期があったと思うんですけど、どのような決心をして、どういう思いで引退されたんですか?」
みどり:「私も演技が終わった瞬間、『もう、これで引退』ってすぐ決まったよ。私は最初の引退は。銀メダルだったんだけれども、ショートプログラムを失敗、フリーも最初トリプルアクセルを挑戦して、で2回目は成功。もう失敗も成功もあるけど、それが今の私であって、やり切った、がんばったことへの今はこれが限界だと悟ったので。本当はその後の世界選手権も出なければいけなかったんですけど、いろんなことがいっぱいいっぱいになったので、アルベールビルが終わってから、まず引退と」
真央:「引退発表をしてから、月日がたつごとにまたやりたいなあとか、そういう思いはまた出てきましたか?」
みどり:「カタリーナ・ビットさんとかわかるかな? 当時、過去に金メダルを取った人たちが、力のある人たちがやっぱり戻りたい、やりたいって結構戻ってきた年だったのね。いろんな人たちがカムバックをしたのを見てて。ああすばらしいなあ、すごいなあ、って思いながら見ていて、いろんなスケートを通じて経験をさせてもらううちに長野オリンピックが決まったの。日本で行われるっていう。72年の札幌オリンピックの時はまだ2歳とか3歳とかだったので、日本でやるオリンピックってはたしてどんなのだろうか、と。で、何かの形で携わりたいと思ったときに、もし力があるのであれば長野オリンピック選手として行けたらいいなあということで、まずやってみないことにはわからないということでやりだしたのね。日本の大会では勝てたの。チャンピオンになれたの。すごいね」
(会場拍手)
真央:「その……ブランクはどれくらいあったんですか?」
みどり:「92年から95/6年シーズンなので、3,4年?」
真央:「3,4年のブランクがあって」
みどり:「4年。うん、でも日本で勝つことができても、トリプルアクセルを決めても、世界に行ったらやっぱり甘くはなかったね。世界はレベルが高くて、みなさんモチベーションが高くて、そこに自分の体調とかモチベーションとかピークを持って行くことができなくて。結果的に7位で終わったんですけど、それはそれで自分としては結果なので、悔いなくまたそこで、引退したね。でも滑るということは……また違った形で滑りたいと思ったので、プロとしてまだ滑り続けているよね」
真央:「日々練習することで、ああ、今日はいやだなあとかやめたいなあと思うこともあったと思うんですけど、何がみどりさんをこう、強い気持ちを持ってここまでがんばらせることができたんですか?」
みどり:「基本はスケートが好きだから。楽しいから。だから真央ちゃんきっといろいろ人生こうね、悩んでいると思うけど、真央ちゃん、今、今しかできないことだから。今、与えられた環境の中で、今、自分の心の、自分の声を聞いてみて、がんばりたい、スケートをしたい、選手として続けたいという気持ちが強いのであれば、やったほうがいいと思うし。もしそうじゃなくて、もっと違う形でスケートに関わっていきたいと思うならば、それもまた真央ちゃんの道だろうと思うし。すべて、今与えられた環境の中で答えを出さなきゃいけない中で、これを決断して悔いが残らない、心に比重が重いほうを、選択していくのがベストなんじゃないかなと。でも今しかできないことだから……」

この対談では、たとえばほかにも、使用音楽の編集について、みどりさんが自分の持ち味であるジャンプをよく見せるためにどういう風にこだわっていたのかという話も聞くことができます。そういう意味でも非常におもしろいです。

「世界に行ったときに自分の持ち味は何ですか?見せたいものはなんですか?」ということに敏感で、それを人々に見てもらうことを意識して、そのためにこそ極める努力を怠らなかった選手の演技は、結果として優勝という形で終わっても、優勝できなかったとしても、それを見た人々の心に残り、惜しまれるものだと思います。今競技に出ているどれだけの選手が「自分の持ち味は何か」について本気でこだわって滑っているのだろうかと考えてみても、伊藤みどりや浅田真央のファンではなくてもこの体験談は聞く価値がありますよ。

最近の例でいえば、町田樹さんがああやって競技をあっさり引退してしまった理由もはっきりわかる気がします。そしてプルシェンコやパトリック・チャンが競技復帰を表明した理由も。もうね、パトリックなんて今回の復帰に関して「今後自分の持ち味を何にしたいのか」思いっきりしゃべりまくっていましたし。プルシェンコなんて、スケート滑るたびにどんな場であろうと「プルシェンコとは何かを見せてやろう」という意欲満々じゃないですか。そういうこだわりのある人は本当に強い。

自分の演技を通じて人々に何を見せたいかというものがあり、それに悔いなく真摯に取り組んできた人は、どんな道に行ってもゆらぐことがないのでしょう。少なくとも世界の第一線で何かをなしていく場合、その動機、そう、モチベーションは外から与えられるものではなく、自分のなかから自然にわき出るもの。だから長野オリンピックという外的要因が動機になった2度目の競技生活がみどりさんにとって何かちがっていたのも当然だったのかもしれません。そうした経験しないとわからないことを、あえて実際に経験してから納得したみどりさんを尊敬します。

最後に余談になりますが、以前、造幣局が作ったという日本での五輪3大会のメダルを見たことがあります。銀メダルと銅メダルは純正ですが、金メダルだけは銀に金メッキを施したものだそうです(純金だととんでもなく重くなるからなんですけどね)。みどりさんと真央ちゃんの対談を聞きながら、どういうわけか銀メダルは純正だけど金メダルは所詮メッキだという話を思い出してしまいました。

もちろんメッキの金メダルを純正にできるのは、それを得た人のその後の生き方なのだと思います。

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3 thoughts on “二十数年ぶりに理解する

  1. Pingback: ジャンプについて、以前のエントリについてコメントいただいたので。 – いちごスプーンのノート

  2. こんにちは。
    先日は、お返事ありがとうございました。
    伊藤みどりさんが、長野オリンピックに向けて世界選手権に出場した気持ちを読んで、なぜか元気になってきました。
    みどりさんは、長野オリンピックにも出場する権利もあった(と思うのですが、)のに、いろんな事情(私にはわからないけど)で、出場しなかったのでしょうね。
    引退してから、オリンピックに出場したビット様達もすごいけど、出場しようとしていたみどりさんや他の方々も大変な努力と精神的な強さが必要だったのだろうと思います。
    お金あるだろうと思う、ビット様でも自伝で、オリンピックに出場する為に、振り付けや衣装にお金が、かかると書いていました。
    みどりさん達が、アマチュアだった頃は、スポンサーとかもつけらない決まりというか、プロにならないと、お金にならない競技だったから、大変だったでしょうね。
    浅田さんは、競技期間が長いから、ジャンプとか大変(細かい事は、わかりませんが)だと思います。
    女子は、だいたい十代後半が、ジャンプは良いですのもね。
    でも、滑りとかは、20代になってからの方が、いいんですよね。
    それが、フィギュアスケートの難しさなのでしょうか?
    よくわからないのに、ずらすら書いてすみません。
    でも、真央ちゃんとみどりさんの会話の感じが、すごく爽やかで良かったです。

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    • みけ 様

      コメントありがとうございます。

      ビット先生の自伝は読んだことがありませんが、お金がかかるといっても、国がある程度のバックアップしていたであろう東ドイツ代表時代(もちろん、その代わりに別の不自由さもたくさんあったと思います)と復帰後のリレハンメル五輪時代では、その切実さはきっと違ってただろうなと想像します。

      このラジオの対談の中で、ジャンプについておもしろい話があったんですよ。
      陸上でジャンプして何回転回れるかという話。

      長くなるので、別立てのエントリで書いてみていいでしょうか?

      実はサーバーを変えてサイトを移転しました。続きは、こちらのほうにアクセスお願いします。

      http://berryspoon.essay.jp

      後ほどアップしますのでよろしくお願いします。

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